静かなる狂気の映画「ビューティフル・デイ」
ビューティフル・デイ(2017年)
個人的評価: 3・5/5
カンヌ国際映画祭で、男優賞(ホアキン・フェニックス)と脚本賞の2冠を獲得したスリラー映画です。
女性監督のリン・ラムジー作品。音楽をレディオヘッドのジョニー・グリーンウッドが担当したことも話題になったようです。
最近、私の中でヒットだった「ウォーク・ザ・ライン 君につづく道」で、スター歌手の波乱万丈の人生を見事に演じていたホアキンが主演とのことで、気になっていました。
メインビジュアルも、私好みのダーク・破滅系の匂いをぷんぷんさせています。
無駄なセリフが省かれ、設定の説明がほとんどない映画だったので、
詳しいあらすじはWikipediaに委ねます(すみません)。
あらすじ
脳疲労した私が読み取れた範囲で、ざっくりと説明すると
舞台はニューヨーク。
軍隊やFBI捜査官の過去をもつジョー(ホアキン)は、殺しも含む危険な仕事を請け負いながら、年老いた母親と2人でひっそりと暮らしていた。
幼少期に父親から受けた虐待や捜査官時代の凄惨な体験がトラウマとなり、たびたびフラッシュバックに悩まされ、薬が手放せない。自殺衝動にも襲われ、窒息寸前までビニールをかぶり続ける自殺未遂のような行為を繰り返していた。
ある時、ジョーは、上院議員から家出した娘ニーナ(エカテリーナ・サムソノフ)を捜してほしいと依頼される。
ニーナは誘拐され、売春宿で働かされていた。ジョーは、ハンマーを手に売春宿に乗り込み、警備や売春客を殺し、ニーナを救出する。
※以下、ネタバレあり
ところが、ニーナを引き渡すために上院議員と待ち合わせしていたホテルで、上院議員が飛び降り自殺したというニュースを目にする。その直後、部屋に乱入してきた男2人組に襲われ、ニーナを連れ去られてしまう。
見張り役を倒して自由の身になったが、仕事を仲介した友人が拷問を受け、殺されていた。急いで自宅に戻ると、母親も射殺されていた。
ジョーは、自宅を見張っていた男たちを銃で襲い、ニーナ誘拐の黒幕が州知事だったことを聞き出す。一度は母親の遺体とともに湖に沈み、自殺を図るが、気を持ち直し、ニーナの救出を決意する。
ジョーは州知事を乗せた車を尾行して自宅を突き止め、ニーナの救出を図る。だが、州知事は既に喉を裂かれ、死んでいた。キッチンでは、血まみれになったニーナが一人で食事をとっていた。
(感想)あえて王道を外してくる、独特な狂気世界
※ネタバレあり
おじさんと少女の逃避行、という骨組みだけ見ると、「なんだ、レオンじゃないか?」と連想してしまうが、かなり毛色の違う世界観に仕上がっていた。
「レオン」でジャン・レノとナタリー・ポートマンがある程度、時間をかけて紡ぎだしていた2人だけの淡い世界観は、ビューティフル・デイには見られない。
ニーナを売春宿から救出したかと思うと、すぐに奪還され、次に再開するのはクライマックス。
自らの命を引き換えに、少女マチルダの命を救ったレオン。あの結末は、かなり感情を揺さぶる万人受けする切なさだった。
ジョーも命がけの救出を試みますが、時すでに遅し、少女自ら、自分を食い物にした大人に天誅を下してしまっていた、という。
ちょっと悲しいような、恐ろしいような、でも肩透かし。エクスタシーも何もない。
バイオレンスも、この手のジャンルで期待されるような殺害シーンを、意図的に省いているのも独特。
ハンマーで乗り込むシーンは監視カメラ映像に切り替わってはっきり見えないし、銃撃シーンも相手に着弾するのが見えないし。バイオレンスより、芸術性を狙ったのでしょうか。
派手なシーンを省いたぶん、じっくり描かれていたのが、ジョニーの心の闇。
説明的なくだりがないので、具体的にこの男の過去はわからない。
ただ、フラッシュバックの映像から、幼少期に父親からハンマーで虐待され、捜査官時代には多くの女性の命を救えなかった?トラウマがあることは、うかがえる。
鏡の前で古傷だらけの身体をさらし、不気味に笑みを浮かべる。ハンマー片手にふらふら歩く。ホアキンの一つ一つの動き、表情が狂気を感じさせます。
特に「おー」となったのは、自分の母親を殺した知事の手先の男に致命傷を与えた直後のシーン。
ジョーは、床に倒れたこの男と、なぜか心を通わせ、隣に横たわりながら、一緒に歌を口ずさむ。このような異様なシーンは、ほかの映画でみたことがない。
あまり他にない雰囲気をもった風変わりな映画だなーという印象。
でも、王道パターンを外してるだけに、好き嫌いは分かれそうです。